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東京地方裁判所 昭和24年(ヨ)3537号 決定

申請人 松原福与 外十一名

被申請人 東京鋼材株式会社

一、保証 無保証

二、主  文

被申請人が、昭和二十四年十二月二日申請人A、同B、同C、同G、同Hに対してなした解雇の意思表示はその効力を停止する。

申請人D、同E、同F、同I、同J、同K、同Lの本件申請はいずれもこれを却下する。

三、理  由

第一申立の趣旨

申請人等は、「被申請人が昭和二十四年十二月二日申請人等に対してなした解雇の意思表示は、その効力を停止する」との決定を求め、

被申請人は「申請人等の本件申請は、いずれもこれを却下する。」との決定を求めた。

第二争のない事実

一、被申請人会社は、昭和二十四年十二月一日金属工業を目的とし、三菱製鋼株式会社(以下「三菱製鋼」と略称)の第二会社として設立せられた会社である。

二、申請人等は、それぞれ、別紙各表「入社日時」欄記載の日「三菱製鋼」に、その従業員として雇入れられ、同表記載の各職場において、その記載のごとき職務に従事していた。

三、被申請人会社は、その設立と同時に、「三菱製鋼」と申請人等とのあいだの雇傭関係を承継したが昭和二十四年十二月二日、企業整備による人員整理(総数二百六十名、うち、希望退職者百五十八名)に際し申請人等を解雇する旨の意思表示をなした。

四、被申請人会社が一般の解雇基準として挙示した項目は、次のとおりである。

(1)  昭和二十四年十一月十日現在で長期欠勤引続き三ケ月以上に亘るもの及び引続き二ケ月以上に亘ると予想されるもの。但し会社が必要と認めたものは除く。

(註)但書は長年勤続の人で会社に功労のあつた人又は技能、人物の勝れた人で業務の運営上必要な人等を言う。

(2)  勤務成績のよくないもの。

(註)過去三ケ年間(昭和二十一年十月十六日から昭和二十四年十月十五日までの期間)の出勤成績の良くない人で猶仕事振りの悪い人。

(3)  技能、経験の低位のもの。

(註)現在の仕事に対する作業技術の低い人又は経験が浅くて作業技術の低い人。

(4)  労働能率低位のもの。

(註) イ 技能、経験の低い者で作業能率の挙らないもの。

ロ 技能、経験があつても仕事に対して熱意なく作業能率の低いもの。

ハ 技能、経験があつても病弱又は老齢のため一人前の作業の出来ない人。

(5)  勤務年限の浅いもので会社の必要度の低いもの。

(註)会社の必要度の低いものとは勤務成績、作業能力又は人物の点に於て成績の低い人を言う。

(6)  過去に於て不始末の行為があつたもので程度の重いもの。

(註)主として懲戒委員会に於て懲戒処分を受けたものの中程度の重い人。

(7)  不急不要部門に属するもので他の部門に配置転換の困難なもの。

(8)  経営効率に寄与する程度の低いもの。

(註) イ 業務上の指示、方針等に対し絶えず協力せず職場全体の作業能率を阻害するもの。

ロ 同僚との協調を欠き職場の作業能率を阻害するもの。

ハ 自己の職務に対する責任感及び誠実性に欠けているもの。

ニ 右の各項((1)より(8)まで)には該当しないが総体的に成績の良くないもの。

五、被申請人会社の従業員約千六百名のうち約千五百五十名は、全日本金属労働組合東京支部三菱製鋼東京分会(旧名義並に現略称「三菱製鋼東京労働組合」)を組織しており、申請人等は右組合に所属していた。

第三、申請人等の主張

一、申請人等は、いずれも別表「組合関係」欄記載のように、前記「三菱製鋼東京労働組合」又は、その上位組合の役員として、積極的に組合活動をなしてきたものである。すなわち、申請人A、同Bは組合専従者の右両名及び申請人C、同E、同Fは組合の最高執行機関たる中央闘争委員、申請人G、同J、同Lは拡大中央闘争委員であり、又、申請人H、同I、同K、同Dは、組合活動に勇敢且つ熱心に従事した経歴を有し、なお、今次の人員整理反対闘争の先頭に立つてきたものである。

二、しかるに、申請人等は、いずれも、前掲整理基準に該当せず(その詳細は別表「反駁」欄記載のとおり)、しかもその具体的基準の明示を受けずに解雇せられた。加うるに、今囘の解雇は、

(1)  被申請人は、赤字補填を理由とする整理であることを宣言しながら、組合から自主的にえらばれ、組合から給料を得ている専従者二名を解雇している。

(2)  日本共産党員である組合員約二十名中申請人等を含む十五名(申請人等は、いずれも同党員である)の組合員を解雇している。

(3)  中央闘争委員二十四名中五名(二〇%強)を解雇している。

(4)  一般の解雇率は、七%である。

(5)  申請人等は、いずれも前記組合の最も積極的活動分子であつて、その組合員に対する影響は、大なるものがある。

三、このような事情を綜合すると、被申請人会社が、申請人等に対してなした前記解雇は、申請人等が前記のように、組合活動をなしたことを理由とするものであるから、不当労働行為たる解雇として無効である。

四、而して、本案判決の確定をまつときは、囘復すべからざる損害をこうむるから、従業員たる地位を保全するため、申請の趣旨のごとき仮処分命令を求める。

五、申請人等(申請人A、同Bを除く)が、解雇確認書を提出したのは、失業保険の給付を受けるため、離職票の交付を求める手段であつて、解雇を承認したものではない。

六、申請人F、同Dが解雇予告手当を受領したのは、その生活を維持するため、やむを得ずに受領したものであつて、これにより解雇を承認したものではない。(尚、同申請人等は退職金を受領していない。)

第四、被申請人の主張

一、被申請人会社は欠損八百三十三万円を補い、会社再建のため、本件解雇を行つたものであつて(なお右解雇は、賃下げ一〇%、交通、給食費の会社負担の廃止と相まつて残留従業員全員の一致協力により難局を切り抜けんとするものである)、申請人等は、いづれも別表「整理該当項目」欄記載のように、前記解雇基準のいずれかに該当しているものである。

二、申請人等は、前記組合の最も積極的活動分子であつた訳ではなく、その組合員に対する影響力はわからない。特に申請人等のうちには、組合三役(組合長、副組合長、書記長)となつたものはない。而して、常に組合の先頭に立つて最も活溌な組合活動をしたものは、組合三役の地位にあつたものであるがこれに就任したことのあるもの十三名中、今次の整理で退職したものは、一名にすぎない。

三、従つて、申請人等の解雇は、何等不当労働行為たる解雇ではない。

四、申請人A、同Bを除く爾余の申請人等は、昭和二十四年十二月七日退職願を提出し、なお、申請人F、同Dは、解雇予告手当を受領しているものである。

第五当裁判所の判断

一  申請人等の組合活動

申請人等は、それぞれ別表「組合関係」欄記載のとおり、組合役員もしくは闘争委員として組合活動をしていたことが認められるが、更にその活動が、被申請人会社に差別待遇の意思を決定せしめるにたるほど顕著であつたか否かを検討しなければならない。

申請人等のうちには、(一)、「三菱製鋼労働組合」の幹部役員として、直接被申請人会社との交渉に当つていたもの、及びその上位団体(全鉄労又は全金属)の役員として活動していたものと、(二)職場に在つて労働条件の向上、職場施設の改善等につき、その職場における労働者の発意と活動をうながし、職場の幹部に働きかけていたものとがあり、申請人A、同B、同E、同F、同H、同K、同Lは右(一)の類型に、申請人G、同I、同Jは、右(二)の類型に属するものということができるが、申請人Dが、このように積極的な組合活動をしていたことは明かではない。而して、(一)の類型に属する申請人等の組合活動が被申請人会社にわかつていることは明かであるが(特に、申請人A、同B、同C、同H等は、昭和二十三年十二月から翌二月にかけての越年資金闘争四大要求闘争において、活溌に活動していた。)、(二)の類型に属する申請人等についても、その組合活動はかなり根強く行われていたから、被申請人会社の注意をひくには十分であつたことがうかがわれる。

このようにみてくると、申請人Dについては、不当労働行為が成立する余地はなく、ただ、解雇基準に該当するかどうかということが残されることとなる。

(解雇基準は、使用者と労働組合が協定したときは労働協約に、使用者が一方的に定めたときは就業規則に準ずるものといえるから、これに違反する解雇は無効である。)

二、不当労働行為の成否

不当労働行為が成立するか否かは、使用者の差別待遇の意思が解雇の決定的な動機であつたか、もしくは解雇基準に該当すること(厳密にいえば、使用者におけるその認識)が決定的原因であつたかによつて決せられるから(昭和二十五年五月十一日当庁昭和二十五年(ヨ)第一五九号、東京急行事件決定参照)、かかる觀点に立つて、申請人等の解雇が不当労働行為となるか否かを判断する。

(一)  申請人E、同F、同I、同J、同K、同Lについては、それぞれ、被申請人会社が同人等の解雇事由として挙示する事実が一応認められこれを覆すに足る反証がなく且つそれが本件解雇の決定的理由であつたことが認められる。

すなわち、右申請人等については組合活動に専従していたという事実を十分考慮にいれても、その技術が同職場の従業員より優れていたということは明かではなく、(特に、申請人J、同I、同Lはその体位並びに健康上、重労働には適しないと認らめれる。)又、申請人F、同Kは、職場において同僚との協調性を欠き、申請人Eは、作業に対する十分な熱意を欠いていたことが認められるから、企業整備に際し、解雇せらることは、やむを得ない、といわなければならない。

(二)  申請人A、同B、同C、同H、同Gに付いては、解雇基準に該当する事実が明確ではなく、むしろ、右申請人等において組合活動をなしたことが、解雇の原因となつたものと解すべきである。すなわち、

(1) Aについて、

(a) 同申請人の経歴、入社試験に合格し、且つ、通常以上の賃金を支給せられたこと等に徴し、その作業技術が低位であるとは認められず、機械工作の実務については、相当の技術があり、職務に対して忠実であつたことも認められる。また業務の遂行について、ことさらに職制に反対して職場の能率を阻害したということも明かではない。

(b) 更に、入社前六囘職を変えたことは、同申請人の移り気によるものではなく、作業の習熟、勤務先のつごう等によるものであることが認められるし、入社の際履歴書に懲戒解雇の旨を記載しなかつたことも、後に東京都労働委員会のあつ旋により、それが取消されたことに徴すればことさらに解雇事由としてとり上げるほどのこともないと思われる。

(c) 勤務年限が浅いことそれ自体は、同申請人より後に入業したものが十一名いることにかんがみ、解雇の理由としては不十分であり、(a)(b)に述べたところによれば、解雇せられなかつたものより、被申請人会社の必要度が低いということは認められない。

(2) Bについて

(a) 同申請人の経歴、入社時の事情等によれば、その作業技術は、同申請人の経験年数に比して比較的優れていたことがうかがえるし、その職務に熱意のあつたことも認められる。

(b) 同申請人は、その職場において、青年間に信望があつたことは認められるが職制幹部に対し、業務上の指示に従わずして職場全体の作業能率を阻害したということは認められない。

(c) 入社前職を五囘変えたこと、履歴書に懲戒解雇の項を記載しなかつたことは、申請人Aについて、述べたと同様である。

(d) (a)に述べたところに徴し、その勤務年限の浅いことは、解雇を正当づける理由とは解し難い。

(同申請人より後に入業したものが三名あり、内二名は他から配置転換になつている。)

(3) Cについて

(a) 同申請人は昭和十三年二月二十八日東京鋼材(三菱製鋼の旧社名)に研磨工として入社、昭和二十年十月三十日家庭の事情により退社、昭和二十二年五月十二日再入社したものであつて、戦時中役付工として勤務し、その技術は優秀であり、労働能率もよいものと認められる。

(b) 同申請人が、職場を離れたのは、協同組合の事務に専従していたからであつて、(右は、協同組合定款に基く行為である。)この点については、作業幹部の承認を得ていることが認められるから、これを目して作業に対する熱意がないとか作業態度が悪いということはできない。

又、事故欠勤も、やむを得ない事情に因るものと認められる。

(c) 同申請人が工場の秩序を紊するような行為があつたとの立証はない。

(d) (a)項に敍べたところによれば、勤務年限浅く会社の必要度が低いというのは適当ではない。

(4) Hについて

(a) 同申請人は、昭和二十二年二月以降翌二十三年三月までは組合専従者でないにもかかわらず、ほとんど作業に従事していないことになつているが、同申請人はこの期間、磁鋼支部常任委員をしており事実上の常任(いわゆる半常任)として、作業長承認のもとに組合業務に従事しており、また組合文化部長解任後も、作業長等の許可を得て、組合業務に関与していたことが認められるしその後の就業状態が概して良好であることに徴すれば右の不就業を目して勤務状態が悪いとはいえないであろう。

(b) 同申請人が、作業に対して熱意がなく労働能率が悪いという立証はなく、むしろ作業について責任感強く、その技能も比較的すぐれていたことが認められる。

(c) 同申請人が、被申請人会社の業務に対し、非協力であつたことは、明かではない。

(d) なお、同申請人は、組合文化部長時代に金銭上のことで問題を起したことがあるが、悪意または不正な意図に出たものでないことは明かであるからことさらに、これを解雇事由として挙げることは適当ではない。

(5) Gについて

(a) 同申請人は、人員のつごうにより副班長に代つて、その仕事をしたこともあり、職制幹部の選出に際し、副班長候補に推されたこと等に徴すれば、その技能が低位であつたということはできない。

(b) 同申請人が、入社当時作業に熱意のあつたことは、被申請人会社の認めるところであるが、その後その熱意を失うにいたつたということは明確ではなく、この点に関し、被申請人会社の評価が変つたことは、同申請人が組合活動をなすにいたつたことに基因するようにうかがわれる。

(c) 同申請人が、会社業務に対して非協力であつたという事実は認められない。

(d) 同申請人の出勤状態は良い方ではないが、同人よりその成績の悪いものがおることに徴すれば(a)、(b)項で述べたところにかんがみ、これを解雇事由としてとることはできない。

(e) 勤務年限についても、終戦後入社したものが相当多数いることを考えるとそれだけが解雇事由となるわけではなく、前項までに述べたところによれば、同申請人が、被申請人会社に必要ではないということはできないであろう。(職場の必要度が低いため配置転換を拒否されたという事は明かではない。)

以上のように、右申請人等については、解雇準備に該当する事実が認められないのであるが、被申請人会社が「業務上の指示、方針に協力しない。」といつていることは、作業面において、職制幹部の指示に従わないということではなく、労働条件及び作業上の施設の改善、職制の改革等につき、会社に対し、批判的な態度をとつたことを指していることがうかがわれる。このような事実と、申請人等の前記組合活動とを併せて考えると、右申請人等に対する本件解雇は、同申請人等が組合活動をしたことを理由とするものといわざるを得ないのである。

三、申請人Dについては、被申請人会社が、同人の解雇事由として挙示する事実が一応認められ、これを覆すにたる反証はない。従つて、同申請人の解雇は正当であるといわなければならない。

四、申請人等が解雇承認書を提出した事情は、申請人主張のとおりであるから、これにより解雇を承認したことにはならない。

五、結論

(一)  以上敍べたように、被申請人会社が申請人A、同B、同C、同H、同Gに対してなした前記解雇の意思表示は、不当労働行為として無効である。而して解雇が無効であるにもかかわらず、被解雇者として取扱われることは、賃金労働者のいちじるしい損害であるから、右解雇の意思表示の効力を停止する旨の仮処分を命ずるのが相当である。

(二)  しかしながらその余の申請人等に対する解雇の意思表示は有効であるから、その無効なことを前提として地位保全の仮処分を求める右申請人等の本件申請は失当としてこれを却下すべきである。

よつて主文のとおり決定したしだいである。

(裁判官 柳川真佐夫 古山宏 高島良一)

(別紙)<省略>

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